寝室のカビ・ダニ対策|日本の梅雨〜夏は(基本的に)窓を開けてはいけない
お久しぶりです。快眠屋おのの植村浩太朗です。
もう随分と長い間、商品紹介や納品例、リフォーム例しか書いていなかったので、流石にそろそろコラム的なものを書かないとなーと思い、パソコンに向かっております。最初は簡単に短く書こうと思っていたのですが、性分なのか「ああ、これにも触れておかないと、あれにも触れておかないと」といういつもの癖が発症し、書いているうちにそこそこの長文になってしまいました…。(これでもかなり絞ったつもり)
さて、この梅雨から夏の時期にかけて大きな問題になるのが寝具のカビです。特に敷布団やベッドマットレスといった敷寝具は床やベッドフレームと接地しているので掛寝具に比べて圧倒的にカビが生えやすく、気を付けていたつもりでもカビが生えてしまったという苦い経験をお持ちの方も少なくないでしょう。
またカビと同様ダニもこの時期の課題です。ダニはジメジメとした環境を好みますから、日本の梅雨〜夏はダニにとってうってつけの繁殖環境です。その場しのぎの対策を講じても、そもそもの住環境がダニが繁殖しやすい状態になっていれば根本的な改善にはなりません。
寝具単体でみれば「マットレスを壁に立てかけて風を通す」「布団乾燥機を使って湿気を飛ばす」ことがカビ・ダニに有効な方法ですが、今回は視点を変えて「窓」をテーマに書きたいと思います。寝具とは直接関係ないものの、夏の眠りの改善にもつながる話ですのでぜひ最後までお読みください。
目次
結論:窓は極力開けずにエアコンを使って下さい
地域にもよりますが、この梅雨〜夏の時期に窓を開けることがプラスに働くことはまずありません。窓を開けるメリットは、外環境と繋がりを感じることができるという精神的な部分くらいしかなく、そのメリットの代わりにカビとダニのリスクが大きく上がるというデメリットを背負うことになります。また眠りの質も悪化しますし、住まいの寿命も短くなります。
カビとダニを未然に防ぐには、窓を開けずにエアコンや除湿機をうまく使って室温と湿度をコントロールするのがベストです。以下、理由を説明します。
カビは相対湿度60%以上、ダニは65%以上で繁殖する
繰り返しになりますが、カビもダニもジメジメとした環境を好みます。具体的にはカビは相対湿度60%以上で生えやすくなり、ダニは65%以上で繁殖しやすくなります。よってカビとダニのリスクを無くそうと思うと、室内の相対湿度を60%未満に保つことが最終的な目標になります。(本来は絶対湿度も考慮すべきですが、絶対湿度だとほとんどの方にとって全く馴染みのない話になってしまうので今回は身近な相対湿度を用いています)
夏は夜に窓を開けるべからず
この時期、昼間は気温が高くても夜間はいくらか気温が下がりますので、エアコンを使う代わりに窓を開けて暑さを凌いでいるご家庭は少なくないはずです。場合によっては昼間も節約ということで窓を開けているご家庭もあるでしょう。
ですが、カビやダニのことを考えるのであれば窓は開けてはいけません。換気のためと思って窓を開けている行為は、かえってカビやダニのリスクを上げます。特にある程度気密性と断熱性が確保されているマンションや戸建て住宅の場合は、窓を開けることでその性能を大きく無駄にしていることになりますので、尚更窓を開けるべきではありません。
なぜ窓を開けてはいけないのか?
今の時期の外気はたっぷりの水分を含んでおり、窓を開けると外の空気と一緒に「目に見えない大量の水分(水蒸気)」が室内に入り込んでしまうからです。
例えば昨晩(7/6の深夜0時)の伊勢市の気温は約23℃、相対湿度は約93%でした。気温自体は23℃ですから日中(30℃オーバー)と比べれば10℃ほど低いのですが、着目して頂きたいのは相対湿度の高さです。
理想は室内の相対湿度は60%未満、せめて65%未満を保っておきたいところ。しかし昨晩の外気の相対湿度は70%、80%を遥かに越えた93%…。眩暈のする数字ですね。
この場合、窓を開ければ確かに23℃の冷たい空気が入ってくるものの、この空気はカビやダニの繁殖に最適な湿った空気です。こうなると窓を開ければ開けるほど室内の相対湿度はドンドン上がり、65%未満に抑えることなど到底不可能になってしまいます。
※気温23℃、相対湿度93%の場合、空気中に含まれている水分は19.5g/㎥となります。仮に窓を開けることで、1時間あたり30㎥の換気が行われるとすると、19.5g×30㎥=585gの水蒸気、つまり約コップ3杯分の水分が1時間ごとに室内に入り込むことになります。そりゃカビもダニも喜びますよね。
ちなみに「日中はエアコンを使っているけど、夜は窓を開ける」という人の場合、「エアコン(電気代)を使って外に捨てていた湿気」を夜に一気に取り込むことになるので、むしろ電気代を無駄にすることになります。
夏は日中も窓を開けるべからず
窓を開けてはいけないのは実は日中も同様です。
今日の伊勢は晴れてはいたものの、最も相対湿度が低い時間帯(正午〜午後2時)でさえ相対湿度は61%です。(気温は約30℃)
昨晩の93%と比べるとかなりマシなように思えますが、カビが生えないようにするための目標は60%未満ですから、61%という数字は決して低いとは言えません。
また気温30℃、相対湿度61%の場合、空気中の水分は18.5g/㎥です。相対湿度だけで見ると昨晩の93%よりも30%以上低いものの、これは気温が高いから数字が低くなっているだけで、実際の空気中の水分量は昨晩とほとんど変わりません。(仮に窓を開けて1時間あたり30㎥の空気が流入すると想定すると、18.5g×30㎥=555gの水蒸気が空気と一緒に1時間ごとに流入します)
この時、室温が30℃以上であれば相対湿度は60%前後となるのでカビやダニのリスクは減りますが、夜になって室温が28℃や27℃まで下がると相対湿度は70%前後まで上がりますので、一時的には相対湿度の改善が見られたとしても、結果的にはカビとダニのリスクが上がることになります。
そして忘れてはいけないのは、日中の最も相対湿度が低い時間帯でようやく61%だということ。午前中や夕方は70%前後でシンプルにマズいので、やはり夜間と同様、昼間も窓を開けてはいけないとお考え頂くのが無難です。
※今回は我々の伊勢の気候を例に挙げていますが、今の時期に窓を開けてはいけないのはほぼ日本全国で当てはまる話です。(計算をすればすぐに分かります)
窓を開けると睡眠の質も低下する
窓を開けるとカビやダニのリスクが高まるのは上でお伝えした通りですが、室内の湿度が上がると当然それに伴って不快指数も高まり、睡眠の質も下がります。
快眠屋では常日頃から「睡眠の質を上げるには吸湿性の高い寝具を使うことが大切」とお伝えしておりますが、それは不快な蒸れ感から体を守るためです。ところがどんなに高性能な寝具でもそもそもの住環境が超多湿な場合はリカバリーしきれません。我々人間から放出される汗や水蒸気を吸うだけでなく、外気の水蒸気も一緒に吸ってしまい、100%のパフォーマンスが発揮できなくなるからです。(ポリエステルやナイロンといった吸湿性に乏しい寝具の場合はそもそも湿気を吸わないので不快になります)
この時期に眠りが浅くなったと感じる人が多いのは湿度の高さが主な原因ですから、室内の湿度を上げないためにも極力窓は開けずに過ごすことをオススメします。
布団を屋外に干すのも非推奨
少し話が横道にそれますが、今の時期は外に布団を干すのも推奨できません。上述のようにこの時期の外気はたっぷりの水蒸気を含んでいるので、布団を外に干しても布団内部の湿気が発散されにくいからです。それどころかかえって湿気をたっぷり蓄えた状態で布団を取り込むことにすらなりかねません。
今の時期は布団乾燥機を使って布団を乾かすのがベターです。(もちろん窓を開けていると無意味なので、エアコンや除湿機を使った上で布団乾燥機を使用して下さい)
窓を開けずにエアコンをうまく使おう
では窓を開けずにどうすればいいか。
答えはシンプルで、エアコンを使って室温と湿度を下げましょう。エアコンは室温を下げる時に空気中の水分を外に排出する冷房機具ですから、限界はあるもののエアコンで冷房、および除湿をすれば自ずと湿度は下がります。(当然のことですが湿度を知るために温湿度計は必須。追求したいなら絶対湿度も表示できるものを。)
ただ注意点もあります。
エアコンの設定温度を高めに設定していると、室内がすぐに設定温度に到達するため、その時点でエアコンがサーモオフ状態となり、自動的に送風モードに切り替わります。この送風モードになると、エアコン内部の水分が室内に放出されて、一時的に下がった湿度が再び上がってしまう「湿気戻り」という問題が起こりますので、このサーモオフがすぐに起こらないようにするためには設定温度はある程度低めに設定しなくてはなりません。(特に断熱性が高い住まいは冷房負荷が低いのでサーモオフが起こりやすいです)
例えば設定温度を28℃に設定している方もそれなりに多いと思いますが、これでは設定温度が高すぎるケースがほとんどです。特に夜間は外気温が低い→室内の温度も下がりやすいので尚更です。
どこまで設定温度を下げればいいかは、住宅性能や換気システム、間取り、エアコンの配置といった様々な要素で変わってくるので、一概に「この温度!」とは言えませんが、実験をしながら自宅にとっての最適な設定温度を見極めていってください。
また相対湿度が65%未満になるように設定温度を下げていくと、「除湿はできたけど室内が冷えすぎて寒い」という問題が起こる可能性があります。寒いとは言っても冬よりは当然暖かいのですが、半袖一枚のような夏服だと寒く感じるかもしれません。
ただここまでくるとカビとダニのリスクはほぼないので、この点を考慮すれば多少の寒さなら我慢できるという人もそれなりにいらっしゃるでしょう(それに服を着れば解決します)。また暑くてジメジメした環境と比べれば快適と感じる方も一定数いらっしゃるはずです。夜眠る時にタオルケットなどの薄手の寝具だと寒いかもしれませんが、その場合も薄手の肌掛布団を使えば問題ありません。ジメジメした暑さの中で無理に眠るよりはかえって睡眠の質が上がる可能性が高いです。
寒さが不満なら除湿機を併用するか、エアコンを再熱除湿タイプに
それでもどうしても寒さが不満という場合は方法が二つあります。
一つは除湿機の併用です。
除湿機は除湿の際に大量の熱を出しますので、夏場に使用するとかえって暑くなるのでは?と思われるかもしれませんが、この場合は寒さに困っているわけですからこの熱はむしろプラスに働きます。また除湿機が除湿をしてくれるので相対湿度が下がりやすい上に、除湿機の熱でエアコンがサーモオフしにくくなります(設定温度に到達しにくくなる)。
そしてもう一つの方法はエアコンを再熱除湿タイプにすることです。再熱除湿とは簡単に言うと普通の除湿とは異なり、室温を下げずに除湿できる機能のことです。電気代は普通の冷房や除湿よりも高くなるのがネックですが、その代わりに室温をあまり下げずに除湿が可能になります。
快適な室温を保った上で相対湿度を60%未満にできるのであればそれがベストですから、寒さがどうしても不満だという場合は除湿機を併用するかエアコンを再熱除湿タイプに変えることをオススメします。
住宅性能によってはエアコンの効果が薄いこともある
気密性の低い住まいの場合は、エアコンや除湿機をもってしても湿度を下げることが難しくなります。
気密性が低いということはつまり「住まいに穴が空いている状態」ということになりますので、窓を閉めていたとしてもその穴から大量の外気が室内に流入し続けます。となるとどれだけエアコンや除湿機で湿気を取り除いてもイタチごっことなり、なかなか効果を感じにくいということですね。ちなみに我々の店舗がまさにこのタイプでして、30年前の鉄骨造で断熱も気密もボロボロ。雨が数日続くとどんなにエアコンを使用しても湿度が下がりません。。。
逆に気密性が高い住まいで、全熱交換型の一種換気を採用している場合は、湿度のコントロールが容易くなります。これから家づくりをお考えになっている方は、断熱等級はG2グレード以上、気密性(C値)は0.5前後、換気システムは一種換気を目指してもらうと、カビやダニのリスクが極めて低い上に、室温や湿気でストレスを感じることのない暮らしが送れるはずです。(当然のことながらエアコンの運用は必須で、窓を開けるのは御法度です)
また冷房にしろ暖房にしろエアコンの風が直接体に当たると不快になりますので、できれば断熱や気密だけでなく家全体の暖冷房計画まできちんと提案してくれるHM、工務店、設計士と一緒に家づくりを進めることをオススメします。(いくら意匠が良くても温湿度周りがボロボロだと不快ですし、カビやダニの温床になります)
電気代や設備費用はかかります、ごめんなさい
「おいおい、もっと手軽でお金のかからない方法はないのかよ」と思われた方、申し訳ありません。いずれの方法も電気代や除湿機を購入する費用はかかりますので、今回の改善策は無料でどうにかなるというものではありません。(無料でできて、尚且つ効果が大きい方法などそうそうないのです…)
電気代がもったいないというお気持ちはよく分かるのですが、窓を開けているとダニやカビが繁殖するだけでなく、眠りの質も低下しますし、建物・設備の劣化も早くなります。また冬の暖房費と比べると夏の冷房費はまだ安いので、健康リスクや建物のメンテナンスコストを考慮すると、エアコンや除湿機を使用するメリットは小さくないはずです。(ちなみに断熱性能と気密性能が高い住まいなら電気代も最小限に抑えることが可能です)
5月と10月は窓を開けてもいい
ここまでの内容は窓を開けたい派の人からすると到底受け入れ難い内容かもしれませんがご安心ください(?) 。
年間のうち5月と10月に関しては窓を開けても問題ありません。この時期は気温と湿度のバランスが良く、外気が流入しても相対湿度が大きく上がることがないからです。(ただ5月は花粉問題があるので、実質的に窓を開けていいのは10月だけかもしれませんが、、、)
とはいえ地域によって差があるのはもちろん、天候によって気温と湿度は変わってまいりますので、天気予報と考慮した上で窓を開けるかどうかを判断して頂くとベターですね。
まとめ
- カビとダニを防ぐには相対湿度を60%以下にキープする必要がある
- 梅雨〜夏の時期に窓を開けると湿度が上がってカビとダニのリスクが上がる
- ついでに眠りの質も下がるし、住まいの劣化も進む
- 布団も天日干しより布団乾燥機の方がベター
- エアコンで除湿するのがベスト
- 寒さを感じる場合は除湿機を併用するか、再熱除湿型のエアコンを使う
- 5月と10月は窓を開けても問題なし
小さい頃から窓を開けるのが当たり前の人にとっては「頭では理解できるけど気持ち的には納得できないなぁ」とお感じになるかもしれませんが、今や日本の夏は亜熱帯に近づいています。節約や情緒を優先するあまり、健康を害してしまっては本末転倒ではないでしょうか。
今回の内容は寝室だけでなく、住まい全体にも当てはまる話ですので、例えばダニアレルギーでお悩みの方は「ダニ捕りシート」的なものを使ったり、寝具を防ダニ対応のものにするといった対症療法で対策するのではなく、ダニが繁殖しない住環境を目指して根本的な解決を図るべきだと考えます。