羽毛ふとん診断士がステッキーダウン(Sticky Down)について説明します
目次
ステッキー(スティッキー)ダウンとは
「sticky=粘り気がある」という言葉の通り、ステッキーダウン(sticky down)とは「羽毛同士の絡みが強く、普通の羽毛よりも熱を逃がしにくい」という性質を持った特別な羽毛のことを指します。(スティッキーと表現することも)
シルバーマザーグースダウンやホワイトダックダウンのように、鳥の種類を示す言葉ではなく、羽毛の性質を示す言葉です。快眠屋ではステッキーな性質を持ったマザーグースダウンのことを、普通のマザーグースダウンと区別するために「ステッキーマザーグースダウン95%」と表記しています。
同クラスの羽毛同士で比較すると、基本的にはステッキーダウンの方が総合的な品質で勝ることが多いので、高品質な羽毛を追求していくと、自然とステッキーダウンに行き当たることになります。
しかしながらグースダウンにしろ、ダックダウンにしろ、ステッキーダウンを作り出すには、ハイクオリティな羽毛原料と手間のかかる精毛工程が必要となります。そのため流通量が非常に少なく、我々でもそう簡単に出会えるものではありません。
ステッキーダウンの特徴
① 普通の羽毛よりも保温性に優れる
普通の羽毛の場合は、外部から衝撃を受けると羽毛がバラバラになってしまいますので、それと同時に暖まった空気も逃げてしまいます。
一方でステッキーダウンの場合は、羽毛同士の絡みが強く、一つのクラスター(塊)を形成するため、衝撃を受けても暖まった空気を逃さず、そのままクラスター内に蓄えることができます。
ステッキーダウンが保温性に優れる理由はここにあります。
② 高通気度の生地を使っても羽毛が吹き出しにくい
羽毛の吹き出しは重要な問題です。
日本では「羽毛の吹き出し=不良品」というマイナスのイメージが強いため、国内寝具メーカーはクレームを減らすためにも、できるだけ羽毛が吹き出さない生地を選んで布団を作ります。
具体的には生地を高温でプレスすること(ダウンプルーフ加工)で織目をつぶし、通気性を低下させます。ダウンプルーフ加工を強くすればするほど、通気性が低下し、羽毛の吹き出しリスクは小さくなります。
ところがこれでは羽毛をビニールで包むようなものなので、吹き出しのリスクは低くても、羽毛の吸湿発散性が台無しに。羽毛布団を名乗りながらも、羽毛の良さが活かされていないという残念な布団に仕上がってしまいます。これでは羽毛を使う意味がありません。
「羽毛そのものの性能を最大限に引き出すためには、できる限り高通気度の生地を使わなければいけない。」
「しかし通気度を上げれば上げるほど吹き出しのリスクが高まる。」
快適な羽毛布団を目指すにはこの問題をクリアする必要があります。
そこでステッキーダウンの出番となるわけですね。
ステッキーダウンは羽毛同士が絡み合うという性質を持っているため、通常の羽毛に比べて吹き出しのリスクが格段に低いという特徴があります。それゆえ、通気性が高く蒸れない生地で羽毛布団を作ることが可能になります。
この記事ではステッキーダウンについて取り上げていますが、羽毛布団の快適さを大きく左右するのは生地ですから、高通気度の生地が安心して使えるというのは、快適な羽毛布団作りにおいて極めて大きなメリットになります。
ステッキーダウンの種類
ステッキーダウンには比較的高品質なものが多いのは事実ですが、その中にも品質の優劣があります。それは絡みの強さであったり、ダウンボールの大きさであったり、フェザーの混入率であったり、それぞれの要素を総合的に見て判断をします。また場合によってはステッキーではない羽毛の方が、ステッキーな羽毛よりも質が良いこともあります。
以下、快眠屋が現在取り扱っているステッキーダウンをご紹介します。
① アイスランド産アイダーダックダウン98%
冒頭でステッキーダウンは知名度が低く、幻の存在と述べましたが、アイダーダックダウン(以下アイダー)だけは例外。業界人であれば、ステッキーダウンという言葉は知らなくてもアイダーなら知っている、そんな別格の存在です。
動画をご覧いただいても分かるように、その絡みの強さは圧倒的で、宙に浮いてもバラバラになることがありません。完全に一つのクラスター(塊)を形成します。名実ともに世界最高のステッキーダウンです。
このアイダーを使った羽毛布団だけは、羽毛布団でありながら、羽毛布団ではない掛け心地です。驚くほど軽いのに、上質な真綿布団のように身体にフィット。とにかく他とは一線を画す羽毛です。
保温性だけを比べると、次にご紹介する「ポーランド産手選別ステッキーマザーグースダウン98%」に劣りますが、その差を補って余りあるだけの魅力がアイダーにはあります。ご予算が許すのであれば、ぜひこのアイダーダックダウンを検討してみてください。
組み合わせる生地は、ドイツ製のスーパーソフトバティストを用意しています。この生地は綿100%としては世界で最も軽く、通気度も5.0cc/㎠/以上と非常に高いのが特徴です。生地がとても薄いので、アイダーダックダウン独特の優しい風合いと、その吸湿発散性をよりダイレクトに伝えてくれます。
あるいは当店オリジナル品ではありませんが、スイスビラベック製のアイダーダックダウン羽毛布団も非常に尖った素晴らしい布団です。
その最大の特徴はノンダウンプルーフのシルクジャガード生地にあります。アイダーダックダウンは絡みが非常に強いので、生地にダウンプルーフ加工を施す必要がないという考えから設計された布団で、その通気度は12.0cc/㎠/s以上とのこと。
※ダウンプルーフ加工とは、生地を高温でプレスすることで織り目をつぶし、羽毛の吹き出しを防ぐための仕上げ加工。
元々ヨーロッパの生地は、蒸れ感をなくすために日本よりもダウンプルーフを控えめにする傾向にありますので、ダウンプルーフをかけないというのはその思想を突き詰めた結果なのでしょう。
日本にもノンダウンプルーフの生地はありますが、これは生地をガチガチに織ることで羽毛の吹き出しを防ぐというもので、通気度は低いままです。また生地も重くて硬いので、今回のシルクジャガード生地とは意味合いが全く違います。
デメリットはシルク100%かつノンダウンプルーフの生地のため、言葉では表現し尽くせない優しい風合いを得られる反面、綿100%の生地と比べるとデリケートで裂けやすいというところ。使い方によっては7~10年で生地が裂けることがあります。。。
とはいえ、そもそもこの布団のコンセプトは「他の何を差し置いても最高の掛け心地を追求すること」にあるわけですから、メーカーサイドからすると耐久性について文句を言うこと自体が野暮なのでしょう。最高級のスポーツカーに壊れにくさを求めてはいけない、というのと似ているかもしれません。
ただし生地が裂けてしまったとしても、それで完全にダメになってしまうわけではなく、スイスに送れば全く同じ仕様でリメイクが可能です。(もちろん当店でもリフォームは可能です)
尚、西川などの大手メーカーにもアイダーダックとシルクの生地を組み合わせた布団がありますが(カタログ価格で250万円)、これらのシルク生地はダウンプルーフが施されたものですので、やはりスイスビラベックのシルク生地とは完全に別のものとなります。
② 2019ver. ポーランド産手選別ステッキーホワイトマザーグース98% (SSSクラス|ポーランド)
ポーランド産のマザーグースダウンと言えば押しも押されぬ高級品ですが (その分偽物も多い) 、そのマザーグースダウンの中からさらに大粒のダウンボールだけを手作業で選り分けた羽毛が、このポーランド産手選別ステッキーホワイトマザーグースダウン98%です。アイダーダックダウンを除いては現状最高峰となるスペシャルなステッキーダウンです。(当店のSSSクラス|ポーランドに該当します)
ダウンパワーは440です。なのでダウンパワーだけを見れば、このステッキーダウンよりも優秀な羽毛は他にもあります。
実際当店ではダウンパワー460〜480のマザーグースダウンも取り扱っています。ですがそれらのハイダウンパワーな羽毛と、この手選別ステッキーマザーグースダウンのどちらの質が良いかと聞かれれば、私どもは確実にこのステッキーマザーグースダウンを推します。ダウンパワーが劣っていたとしてもです。
先ほどの動画の後半(01:28〜)でも、手選別ステッキーマザーグースダウン98%と、DP460のマザーグースダウン95%を比較しています。
ご覧のようにダウンパワーは劣っていたとしてもダウンボールの成熟度・密度は大きく違います。当然手選別ステッキーマザーグースダウン98%の方が保温性は高く、耐久性も上です。
ダウンパワーは消費者の方に羽毛の良し悪しを伝えるための基準として生まれたものですが、羽毛は天然の産物ですのでそれだけで優劣を付けられるものではありません。羽毛はパソコンやテレビといった電化製品ではないのです。
真の意味で羽毛の良し悪しを判断するには、ダウンボールの成熟度、ファイバーやネックフェザーの混入率、アレルギーに対する清潔度などを見て、総合的に判断する必要があります。
組み合わせる生地はやはりこちらもアイダーダックダウン同様、ドイツ製のスーパーソフトバティストをオススメします。アイダーの説明でも触れましたが、この生地は非常に通気度が高い上に、世界最軽量のため超極薄。
羽毛の吸湿発散性や保温性を活かすには理想の生地です。
不純物が多い低レベルな羽毛と組み合わせると吹き出しが起こりますが、このポーランド産手選別ステッキーマザーグースダウン98%ならその心配はありません。
予算的にもう少し抑えたいという場合は、日本製のソフトバティストを組み合わせましょう。
ちなみに大手メーカーがこの羽毛を使った布団を販売するとなれば、冬用だと実売価格で40~50万円ほど。安さを競うわけではありませんが、私どもならスーパーソフトバティストと組み合わせても30万円前後で提供が可能です。コストパフォーマンスを気にされる方にもオススメです。
③ 中国産手選別ステッキーホワイトマザーグース95% (SSクラス|中国)
2016年に中国東北地域を訪れた際に見つけたステッキーダウンです。中国東北地域と言えば、真冬に氷点下30〜40℃を記録する極寒の地。この厳しい大地で飼育されているマザーグースダウンの中から、手作業で絡みの強いダウンを選り分けたものがこちらの中国産ステッキーマザーグースダウン95%となります。 (「SSクラス|中国」に該当します)
中国と聞くと、品質面で心配される方もいらっしゃると思います。確かに中国は世界最大の羽毛産出国ではあるものの、品質的にはイマイチなものが大部分を占めます。不安に思われるのも無理はありません。しかしだからと言って、十把一絡げに全てをダメと切り捨てるのは早計です。広大な国土を誇る中国ですから、ほんのわずかの量ではありますが、探せばポーランドやハンガリーの上級ランクを凌駕する羽毛も存在します。
その証拠となるのが、この中国産ステッキーマザーグースダウン95%です。中国産とはいえポーランドやハンガリーの上級クラスの羽毛を凌駕する品質です。
名前だけで品質が伴わない欧州産のマザーグースダウンにお金を出すくらいなら、私たちは断然こちらの中国産ステッキーマザーグースダウンを推します。
尚、組み合わせる生地はこれまたドイツ製のスーパーソフトバティストをオススメします。仮に80サテンクラスの生地と組み合わせるなら、ここまでの羽毛は必要ありません。このクラスのステッキーダウンだからこそ、ぜひその特性を活かしてくれる生地と組み合わせたいものです。
スーパーソフトバティスト×中国ステッキーマザー300g
④ 中国産ステッキーホワイトダックダウン93% (数量限定|中国)
2019年に中国安徽省の羽毛メーカーを訪問した際に存在を知ったステッキーダウン。こちらはグースのステッキーダウンではなく、ダックのステッキーダウンです。(こちらの布団に使用しています)
世の中に出回っているダックダウンと言えば、食用のため飼育期間が30〜50日と極めて短く、ダウンボールも痩せ細ったものばかりです。いわばベビーダックとでも言いましょうか。そしてこのように成長しきっていない身体の小さなダックは、あの羽毛特有のニオイが非常に強いのです。
そのため、快眠屋ではダックダウンを使った羽毛布団は基本的にはあまりオススメしておりません。
ですがこちらのステッキーダックダウンは話が別。
食用ではなく漢方用に飼育されているため、飼育期間は圧巻の180日間。ゆえにダウンボールが大きく、ニオイもなく、絡みが強い羽毛に仕上がっているのです。
流石に先に紹介させて頂いたステッキーマザーグースダウンには全ての面で劣るものの、下手なグースダウンよりはこちらのステッキーダックダウンの方が優秀です。
とにかく価格を重視される方はぜひこちらの羽毛をご検討下さい。
尚、組み合わせる生地は軽量の国産バティスト、あるいは日本最軽量のソフトバティストをオススメします。
※ステッキーダウンではあるものの、ネックフェザー、スモールフェザーの混入がやや目立ちますので、ドイツ製のスーパーソフトバティストでは吹き出しのリスクがあります。
番外編.2018ver. ポーランド産手選別ステッキーホワイトマザーグース98%
https://youtu.be/Z7wJGrlC-s8
2018年に入荷したポーランド産のステッキーマザーグースダウンです。②で紹介させて頂いた2019ver.の前年入荷分となります。
羽毛は工業製品ではなく天然の農産物ですので、ここまでハイクラスな羽毛ともなると毎年安定して同じクオリティを再現することは難しく、ワインのように、年によって羽毛の質が変わってくることがあります。
2019ver.も現在では最高のステッキーダウンに違いはないのですが、2018ver.はさらにその上をいく品質でした。ステッキーダウンにも関わらずダウンパワーは480以上です。もちろんダウンパワーだけでなく、ダウンボール自体の成熟度も圧巻。
しかしこちらの2018ver.の在庫は残りもう僅か。。。
羽毛の状態で在庫している1200gと、既に布団として仕上げてある800gと650gのシングルサイズ2枚しか残っていません。。。
特に羽毛のまま在庫している1200gは超貴重です。
もちろん2019ver.も素晴らしい質で100%自信を持って提供できる羽毛なのですが、2018ver.はこのまま売らずにコレクションしておきたい気持ちもちょっぴりあり、複雑な想いです。
でも手元に置いておいてもこの子(2018ver.)は喜ばないと思いますので、やはりどなたか快適な眠りを求めている方の御宅に嫁いでいってもらうのが一番なんでしょう。
こちらの2018ver.ポーランド産ステッキーマザーグースダウン98%が気になる方はぜひご相談ください。羽毛布団のサイズと用途(夏用、春秋用、冬用など)をお知らせいただければ、お見積もりをいたします。
<動画まとめ>
https://youtu.be/Z7wJGrlC-s8