寝具専門店がジャパネットたかたさんの羽毛布団を購入してみた
多くのお客様から「なぜおたくの羽毛布団はジャパネットたかたより高いの?」というご質問を頂きます。
これはごもっともな話で、羽毛布団の専門家ではない一般のお客様が、同じ羽毛布団なのにどうしてこれほど価格が違うのか疑問に思われるのも無理はありません。
これまではジャパネットたかたさんのWEBサイトに載っているスペック表を元にその違いを説明させて頂いておりましたが、お客様に違いをご理解して頂く上で実物があった方がいいだろうということで、今回ジャパネットたかたさんの羽毛布団を購入させて頂きました。
かなりの長文ですが、最後までお付き合い頂きますと幸いです。
ただ先に結論を述べさせて頂くと、ジャパネットたかたさんの羽毛布団は「とにかく安く作ることを最優先に考えた羽毛布団」であり、私どもの羽毛布団は『とにかく快適に眠ることを最優先に考えた羽毛布団」であるということに尽きます。
根本的な設計思想が違うわけですから、その違いが布団に表れてくるのも当然のこと。価格の違いもそこから生まれているわけでございます。
<ダウンケットについてのレポートはこちらをお読みください>
宣伝で恐縮ですが、12/28まで決算セールで当店の羽毛布団がお安くお買い求め頂けます。
目次
ジャパネットさんの羽毛布団スペック
わたくしどもが購入したジャパネットさんの羽毛布団のスペックはこちら。
羽毛:ヨーロピアンホワイトダック85%
充填量:1,100g
側生地:ポリエステル85%綿15%
キルト:3×5マス立体
羽毛は日本羽毛製品協同組合が定めるところのエクセルゴールドラベルクラスに相当するとのこと。つまりダウンパワー350以上の羽毛だということです。
側生地の違い
ポリエステル混の生地が使われる理由
まず生地について。
ジャパネットさんの羽毛布団にはポリエステル85% / 綿15%というように、ポリエステル混の生地が使われています。
昨今ではジャパネットさんに限らず、この価格帯の羽毛布団ではポリエステル混の生地を使うことが当たり前です。最近では中級価格帯のものですらポリエステル混の生地が増えていますね。それは西川などの大手老舗メーカーも例外ではありません。場合によってはポリエステル100%という生地もあります。
ではなぜポリエステル混の生地が増えているのか。それには世界の食肉事情の変化が関わっています。
ご存知でない方が大多数かと思われますが、羽毛に使われる水鳥(グースやダック)は天然の鳥ではなく99%以上が食肉用に飼育されている家禽です。あくまで食肉がメインで羽毛は副産物です。
ところが近年世界の食肉事情が変わりつつあり、水鳥の飼育量が減ってしまいました。タンパクなグースやダックに比べ、ジューシーな陸鳥(チキン)が求められるようになってきたのです。
水鳥の飼育量が減れば当然羽毛の量も減ります。しかしダウンジャケットや寝具の素材として羽毛の需要は依然高いまま。。。需要に対して供給が追いつかなければ価格は上がります。一時期ほどではありませんが羽毛の価格は10年前に比べると随分と値上がりしているのです。
(この他にも要因はありますが、本題とかけ離れてしまうので今回は割愛します)
そこでポリエステル混の生地の出番となるわけです。
基本的にポリエステル100%の生地やポリエステル混の生地は、綿100%の上質な生地に比べて価格が大幅に安い。
羽毛が値上がりしたとしても、生地のコストを下げることで全体のバランスを調整すれば、値上がり前と同様の価格で羽毛布団を販売できる。そういう狙いがポリエステル混の生地にはあります。
近年の羽毛布団がポリエステル混生地ばかりというのはこういう理由からです。
羽毛布団の心地よさは生地で決まる
しかし快眠屋ではポリエステル混の生地を使うことはありません。
私たちが使う生地は綿100%が大前提。その上で、より軽量で、よりソフトで、さらに通気性が良い生地にこだわっています。ポリエステル混の生地を使った方がずっと安く羽毛布団を販売できるにも関わらずです。
なぜでしょうか。
それは羽毛布団の使用感や快適さは、羽毛よりもむしろ生地の性能によって大きく左右されるからです。
羽毛布団に限らず全ての寝具に言えることですが、湿気をスムーズに吸収する吸湿性が寝具には強く求められます。人間の身体からは不感蒸泄という気体の汗と、発汗という液体の汗が放出されています。寝具に吸湿性がなければこれらの汗が寝床内部にいつまでも滞ってしまい、深い眠りを阻害する原因になります。
人間が快適に眠るためには寝床内の湿度を50%前後にコントロールすることが求められます。暑い寒いといった調温機能だけでなく、蒸れない環境を作るための調湿機能も必要だということです。
その点において、羽毛そのものは公定水分率が13%と非常に吸湿性に優れた素材だということに疑いはありません。(※ポリエステルは0.4%、アクリルは2.0%です)
そのためしばしば羽毛布団は蒸れない寝具だと表現されます。寝具専門サイトでさえもそういった文言を見かけることがあります。。。
羽毛布団とは羽毛を生地で包んだものです。羽毛にどれだけ吸湿性があろうと、羽毛の周りを覆っている生地に「通気性と透湿性」がなければ羽毛の性能は発揮されません。
こういった部分を考慮せずに、羽毛は吸湿性が良いんだ!だから羽毛布団は蒸れないんだ!と短絡的に考えるのは浅薄と言わずになんと言うのでしょうか。
どれだけ最上級の羽毛を使おうが、その羽毛を包む生地に通気性がなければ台無しになってしまいます。
羽毛布団の快適さ(=蒸れない暖かさ)を決めるのは生地だとお見知り置きください。
ポリエステル混の生地は通気性に欠ける
快適な羽毛布団を作るためには、先述したように羽毛の吸湿性を活かす生地を使うことが大切です。羽毛の吸湿性を活かす生地とは、身体から放出される水蒸気をスムーズに羽毛にまで到達させる通気性に優れた生地のことです。
ではポリエステル混の生地の通気性はどれくらいあるのでしょうか。
生地の通気性を測る指標として通気度 (㎤/㎠/sec、以下ccと略)という単位があります。簡単に言えば1秒あたりにどれだけ沢山の空気が通過するかというもので、数字が大きくなればなるほど通気度は高くなります。
一般的にポリエステル混生地の通気度は0.5cc〜1.0ccのことがほとんどです。
それに対し綿100%の生地の通気度は概ね1.0cc〜2.0ccとなります。つまり約2倍の通気性を持つということになります。
ちなみに快眠屋でオススメしているスーパーソフトバティスト生地は5.0cc以上、ソフトバティスト生地は3.0cc以上となっています。
(※通気性が高く蒸れないと言われている綿100%のゴアテックス生地で2.2cc前後です。)
つまりポリエステル混の生地と綿100%の生地では通気度に最大で10倍ほどの差があるということです。
【豆知識】
通気度は生地に施すダウンプルーフ加工のレベルで決まります。ポリエステル混の生地に使われる糸は綿よりもツルツルとしていて摩擦が少ないため、羽毛が吹き出しやすく、ダウンプルーフ加工が強めにかけられています。ダウンプルーフを強めにかけた生地は通気度が低下するので、吹き出しは防げる反面、羽毛の吸湿性を損ないやすくなります。
その一方で綿100%の生地はそれほど強くダウンプルーフを施す必要性がありません。特に平織りの生地は朱子織(サテン織り)に比べてさらに吹き出しにくいので、ダウンプルーフが弱くても問題がそれほどなく、通気度が高い生地に仕上げやすくなっています。
キルト(縫製)について
1マス(ブロック)あたりの面積が大きい
羽毛布団は、羽毛が中で移動して片寄らないように内部に間仕切りが入っており、その間仕切りによってブロック状の構造になっています。例えば4×5マス立体ならば、横に4マス縦に5マスで合計20マス(ブロック)に中が分かれているということ。
つまり布団のサイズが同じなら、マスの数が増えれば増えるほど1マスあたりの面積は小さくなり、マスの数が少ないほど1マスあたりの面積は大きくなります。
最適なマスの数は、中に入れる羽毛の量や求める保温力によって変わってきますので、「これが正解!」というような決まったものはありませんが、マスの大小には以下のような傾向があります。(※実際にはブロックの高さ=マチ高によってもさらに変わってきます)
マスの数が少ない=1マスあたりの面積が大きい
①ボリュームが出やすく、保温力アップ
②身体にフィットしにくい
③1マスの中で羽毛が片寄りやすい
マスが小さい(=マスの数が多い)
①ボリュームが抑えられるので保温力は低め
②身体にフィットしやすい
③羽毛が片寄りにくい
それぞれにメリット、デメリットがあるということがお分かりいただけるでしょうか。
そのため快眠屋では使用する羽毛のダウンパワーや充填量、側生地の軽さ、求める保温力によって、以下のようにマスの大きさや数を調整して羽毛布団を作っております。
しかし正解はないと言っても、これでは明らかにマズイだろうというケース(あくまで快眠屋判断)もございます。
例えば今回のジャパネットさんの3×5マスというように、「マスの数が少なすぎる=マスの面積が大きすぎるキルト」を私たちが採用することはございません。
詰め込む羽毛の量に対してマスが大きすぎると、マスの中がスカスカになってしまいマスの中で羽毛の片寄りが起こるからです。この片寄りは年数が経ち、羽毛のふくらみが弱くなってくるとさらに顕著になります。
ではなぜ3×5マスの羽毛布団が販売されているのか?
それは縫製コストを下げるためです。
マスの数が少なければ少ないほど材料費も縫製の手間も削減できますから、より安く布団を販売することができます。一般消費者の方には分かりにくい部分ですので、おそらく真っ先に削減される要素でしょう。
コスト重視で羽毛布団を作るなら致し方ない部分ですが、キルトの違いには実はそういった違いがあるのです。
新品の時の使い心地、暖かさを長年キープし続けるためには、羽毛のパワーや量に適したキルトで布団を作らねばなりません。
羽毛の違い
ダウンボールの大きさが違う
ジャパネットたかたさんの
布団から取り出した羽毛
外見だけでは中のことは分かりません。そこでジャパネットたかたさんの羽毛布団から中身を取り出し、さらにその中からランダムに10粒の羽毛を選んでみました。(後で数えてみたら11粒でした…。いや厳密には12粒かも…。)
この羽毛は表示通りのものだとしましたら、ヨーロピアンホワイトダックダウン85%。エクセルゴールドラベルということなのでダウンパワーは350以上です。
ジャパネットさんとしてはこの羽毛はとても高品質なものだそうです。
左:ジャパネットたかたさんの羽毛
右:快眠屋が扱っている中国産の羽毛
この写真はジャパネットさんの羽毛12粒と、快眠屋の「Aクラス|中国」という羽毛10粒を比較したものです。私たちが胸を張って高品質だと言える最低クラスの羽毛がこのAクラスの羽毛です。(Aクラスの上にはまだSSS、SS、Sクラスがあります)
写真を見てもらうと、羽毛一粒あたりの大きさの違い、特に中心の白い核部分の違いに気付いていただけるかと思います。
簡単に言うと、粒が小さい羽毛ほど未成熟で、ボロボロに崩れてしまうのが早い。一方で粒が大きい羽毛ほど成熟していて丈夫なので、長年使用しても壊れにくい。つまり耐久性に大きな差が出ます。
3粒で比較
1粒で比較
数が多いと分かりにくいかもしれないので、3粒と1粒でも比較してみました。
<2020.2.15追記>
ダックダウン同士で羽毛を比較してみた動画です。ご参考になれば。
どこからが高品質だという明確な基準はない
この写真を見る限りでは、左が低品質な羽毛で、右が高品質な羽毛に思えます。実際その通りです。
ただし日本羽毛製品協同組合は、ダウンパワーが高い羽毛ほど高品質だとしている一方で、実際にどの程度ダウンパワーがあれば高品質なのかは定めていません。
つまり快眠屋のようにダウンパワー420以上を高品質だと考えるのも、ジャパネットさんのようにダウンパワー350以上を高品質だと考えるのも、どちらも間違いではないというわけです。
この辺りの線引きは非常に難しいのですが、一つ言えるのは、同じ高品質という言葉でも実際の品質は大きく違うということ。価格差はこういった部分からも生まれています。
10年、20年、30年先を見据えて
布団の価値は10年後に分かるという話があります。買った直後は同じようなものに思えても、年数が経つにつれてその良し悪しがハッキリとするということです。
10年後に、あそこで買った羽毛布団はやっぱり違うねと、そう言って頂きたい。自己満足かもしれませんが、私たちはそんな羽毛布団を提供したいとも思っています。
上述したこと以外にもまだまだ沢山の違いがあります。羽毛の洗浄レベル、羽毛のニオイの有無、生地の縫製などなど。
同じ羽毛布団という名前であっても、その素材・設計思想が根本的に違うのです。
私たちは安くて売りやすい羽毛布団よりも、アレルギーの方でも安心して使えて、蒸れ感のない羽毛布団をお届けしたいと考えています。しかしながらそのような羽毛布団を作るにはそれ相応の素材と技術が必要です。そしてそれにはそれ相応の費用がかかります。
そして最後に誤解して頂きたくないのは、私たちにこの記事を書くことによってジャパネットさんの羽毛布団を貶めるつもりは全くないということです。
もし産地偽装や、不当な価格で販売しているというのであれば問題ですが、それなりの品質のものをそれなりの価格で販売する。至極当たり前のことです。業界全体のことを考えるなら、もう少しだけ羽毛布団の本質についてCM内でも説明をして頂ければ嬉しいなとは思いますが、ジャパネットさんは寝具メーカーではありませんからそれを期待するのも無理な話でしょう。
何度も繰り返しますが、最終的なご判断を下すのは消費者の皆様です。ただし正しい判断を下すためには、正確な情報が必要です。その思いで今回この記事を書きました。少しでも皆様の羽毛布団選びのご参考になれば幸いです。
快眠屋の羽毛布団についてはこちらをご参照ください
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